ちょっと法律談義

上の話と重なるのですが、ちょっと法律談義を。

有責性とは

上の山形マット殺人事件では、加害者は13歳でした。よって刑罰を受けることはありません。
これを少年法の規定によるものと勘違いしている人が結構多いのですが、実際には刑法41条の規定によるものです。
確かに平成13年の少年法改正で刑事罰の対象が14歳以上に引き下げられたのですが、これを更に引き下げるには刑法41条の改正または削除が必要なのです。


ある行為が犯罪と認定されるには、次の3つを全て満たしている必要があります。

1. 構成要件を満たしている
2. 違法性がある
3. 有責である


1.は、法律の条文に「これをやったら罰せられますよ」と書いていることを行ってしまうということです。
例えば、私が突然細谷君を投げっぱなしジャーマンでぶん投げたら、次の条文に引っかかります。

(暴行)
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

ケガをさせたら傷害罪ですし、殺したら殺人罪になるわけです。


しかし、これがプロレスのリングの上だったらどうでしょう?
また、突然包丁を持って襲いかかってきたのだとしたら?


もちろん、罰せられません。
共に「暴行罪」の要件は満たしていても、責められるべきものではないからです。
すなわち「違法性」がないのです。
前者は「正当業務行為」、後者は「正当防衛」になります。
他に「緊急避難」といって、自分の命を守るために関係ない人を死なせたりしても罪にはなりません*1


そして問題になるのが「有責性」。
有名な話では、精神に異常のあるものは無罪になったり、減刑されたりします。
これは、映画のタイトルにもなった刑法39条の規定によるものです。
そして、上の「14歳未満は罰しない」というのも、この「有責性」の問題なのです。


刑罰とは、基本的には「受刑者を更正させるため」に行うものです。
つまり、「私は悪いことをやりました」という自覚があることが前提なのです。
それのない人間に刑罰を科しても意味がないわけです。


この辺を、うちの師匠(昨日憲法の集中講義をやった先生です)がズバリ言ってくださいました。
精神障害者や少年は、殺す価値すらないのである。
すなわち、ヒト扱いされていないから、刑罰を科さないのです。


マット殺人事件の犯人は、「ボクは14歳だから逮捕されないんでしょ?」と法廷でホザいたといいますし、「14歳未満なら逮捕されないから」という理由で強盗や暴行を繰り返す少年も後を絶たないようです。
しかし、これらは大きな勘違いと言わざるを得ません。
サルであることを自ら認めているのですからね。


・・・そんなわけで、平成7(1995)年の刑法改正で、刑法40条が削除されました。
これは、瘖*2唖(いんあ)者(聴覚に障害を持ち、言語能力を欠いたもの)に同様の措置をするものです。
すなわち、「ツンボはヒトじゃない」という法律が90年代までまかり通っていたことになります。


そんなわけで、世の未成年諸君は「ヒト殺しても無罪だぜ!」と喜んでいてはいけないのです。

*1:警官・消防士など、「人の命を守ること」が仕事の人は除く。

*2:ヤマイダレに音