スリープレコード論入門

従来、ヨーヨーは重量が外側に寄っているほどスリープ力は上回るとされていました。
その理論に基づき、スリープのためだけに作られた機種が、メガスピンファクター2.2でした。


しかし近年のスリープレコードでは、ミニモなどの小さなヨーヨーが活躍しています。
なぜMSFがスリープレコードの舞台から退場したかといえば、こいつで十分なスリープ力を出すためには、相当強い力で正確にスローしなければならなかったからです。
確かに回転半径*1が大きい方が止まりにくいですが、裏を返せば回しにくいということでもあります。
そのため、プレイヤーの腕力とスローの精度を考えるならば小さなヨーヨーの方がいいというわけです。
この辺は、山口@18氏が数式を交えて詳しく述べておられるので、詳しく知りたい方はこちらをどうぞ。
http://plaza.rakuten.co.jp/yetblog/5000


・・・とはいうものの、上記リンクの式は高校の物理IIで習います。
高校で物理を取っていない人にはちんぷんかんぷんでしょう。
ここでは導入として、もうちょっと簡単に考えてみましょう。


ヨーヨーのスリープ時間は、回転半径と回転速度に比例し、摩擦係数*2に反比例します。
そのため、回転半径を上げるとスリープ時間がのびるといわれてきた訳ですが、同じ力で投げた場合、回転半径が大きいと回転速度は落ちます(これが山口さんのコラムでいう「慣性モーメント」の問題です)。すなわち、極端に半径が大きい機種だと逆に回転数が落ち、あっさり止まってしまうのです。
半径の大きい機種にはそれにふさわしい力が必要なわけで、MSFは筋肉ムキムキのリック・ワイヤットだからこそ使いこなせた機種といえます。


したがって、スリープ時間をたとえば倍にのばしたければ、
・回転速度を倍にする(=倍の力で投げる)
・摩擦を半分にする
のどちらかということになります。
さて、どちらが楽でしょう?


2006EJにおけるロングスリーパー大会では藤田夫人が優勝していましたが、彼女によれば力を入れることよりも、軸周りに金をかけまくって極力摩擦を減らすことを考えた方がいいということでした。
考えてみれば当然で、極端な話、摩擦力がゼロならばどんなへなちょこスローでも永久に回り続けるはずですから。
ベアリングの摩擦が十分小さいなら、妙に力を入れて傾いたスローになるよりは、適度な力のいれ具合で正確にスローできるようにした方がスリープ時間向上につながるというわけです。


「じゃあ、軸周りに金をかけないとロングスリープは出来ないのか」という反論が出ると思われますが、彼女らのような1分1秒を争う舞台には残念ながら・・・と言わざるをえません。
ただ、勘違いして欲しくないのは、「軸周りに金をかければ俺でもロングスリープが出来る!」というのは大間違いだということです。
彼女らは彼女らで独自の技術と理論を持っており、その上で機種による後押しがあるから強いのです。そういった裏付けのないままで機種だけまねても意味はありません。


また、上記の理論は、ロングスリーパーだけを考えたものでしかありません。
通常のトリックではストリングが二重三重にかかり、摩擦力を減らすことは困難です。
そのため、スローの初速が重要になってきます。
したがって、パワーのある正確なスローの練習は全く無意味ではありません。
それについてはまた後日。

*1:ヨーヨー自体の半径ではなく、ヨーヨーの重量が集中している位置のことをいう。たとえば、アクエリアスは本体の半径は大きいが、ラバーリムなのでここでいう回転半径はかなり小さい。

*2:摩擦係数・・・摩擦力を、摩擦面を垂直に押す力で割った値。ヨーヨーは動いているので、正確には動摩擦係数という。